夏に冷たいものが食べられるようになったのはそれほど昔のことではない。
冷蔵庫の最初は、氷を入れて冷やすものだったから、氷が作れるようなものではなかった。
氷を作ることは専門の工場でやっていた時代である。
その前はというと、庶民が夏に氷を食べることなどありえなかった。
大量の氷を氷室で貯蔵し、それを運ぶのだが、それも冷蔵などできないのだから、途中で融けるし、届いたらすぐに食さないと融けてなくなってしまっただろう。
枕草子の「あてなるもの」の段に、こういう一節がある。
『削り氷に甘蔓(あまづら)入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる』
あてなるもの、つまり上品で美しいものについて書いているのだが、新しい金属製の椀に削った氷を入れてシロップをかけたものがいいというのである。
一条天皇の正妻、中宮定子に仕えていたからそういうものを見られた、あるいは食せたのではないだろうか。
氷は飲み物を冷やしたり、あるいは麺を冷やしたりするのに夏は必要である。
冷蔵庫が自動的に氷を作ってくれる時代になんだが、自分で製氷皿で作るのも情緒というものだろう。
同じ水、同じ冷蔵庫(冷凍庫)でも氷のできを変えることができる。
綺麗な氷にすることができるのである。
水は凍る際に不純物(ここでは溶け込んだ気体)を排出しながら結晶を作る。
速く凍ると不純物を排出できずに取り込んだまま凍ることになる。
一番良いのは外側から冷やし、水を噴きかけ綺麗な結晶を作って、そうでない部分は流し去ることである。
専門の工場ではそうしているし、そういう製氷機もある。
では製氷皿で綺麗な氷(見た目だけだが)を作るにはどうしたらいいか。
ゆっくり凍らせるだけである。
そのために、製氷皿にフタがあるものを使う。
それだけで綺麗な氷ができるのである。
ついでなので書いておこう。
何かを凍らせるとき、温度が低い(室温)ものと高いものだと、どちらが速く凍るだろうか。
「ムペンバ効果で、高い方だ」というのはちょっと残念。
ムペンバ効果というのは、ムペンバ君らが料理を作っていて、室温になってから凍らせた人より、熱いまま凍らせたムペンバ君の方が速く凍ったということから来ている。
最初に聞いて妙だと思った。
高温の場合、外側から冷やされても中はまだ熱いし、均一に冷やされたとしてもいつかは室温と同じになり、そこからは室温から凍らせたものと同じ条件になるからだ。
つまり、ありえない。
対流説を出している人がいる。
温度が高い方が対流が盛んになるからだというのだが・・・
ムペンバ君が作ったのはアイスクリーム(の材料)らしい。
粘度が高く対流は望めない。
しかも、冷凍庫というのは上面だけでなく、全体から冷やされるので対流は起きにくいのである。
実験もせずに対流説を出している人はどうかと思う。
ただし、同じ冷凍庫であれば、熱いものの方が速く冷える可能性はある。
矛盾しているようだが、盲点があるからだ。
温度センサーである。
熱いものを入れると温度が上がるから、冷凍庫は必死に冷やそうとするだろう。
室温のものを入れるとさして温度が上がらず、冷気をそれほど出そうとはしない。
それなら、冷やそうと冷気を出しまくる方が結果的に凍るのが速くなっても不思議ではない。
つまり、物理現象として温度が高いものとそうでないものが凍る速さを比べているのではないことになるのだ。
冷凍庫の性質でしかない。
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